厚生労働省の報告では、2013年の平均寿命と健康寿命の差が男性9・02年、女性12・4年で、2001年の報告以来、ほぼ変化なく健康寿命は延びていません。図1で示すように、健康寿命を伸ばすためには、3つの柱が三位一体として働く必要があります。例えば、「食べる」「話す」「呼吸する」などの口腔機能が低下したり、口と歯が病気に罹ったりすれば、生活の質の低下と共に健康寿命に影響します。
口腔は栄養摂取に関わるだけに、細菌の巣窟です。歯周病の主な原因となる歯垢(プラーク)1㎎中にいる細菌は約10億個。酸素を嫌う細菌、逆に好む細菌など多種雑多な菌のほか、ウイルスなども含まれます。歯周病は歯周組織に起きる病変の総称で、歯肉炎が進行して歯周炎となります。口腔を不潔にしておくと、図2のように歯周ポケットができ、そこに付着する歯垢が増加して、歯周ポケットは深くなっていきます。そして、歯を支える歯槽骨などが吸収されると歯は脱落してしまいます。歯を失う原因の42%が歯周病です。80歳で20本以上の歯を残そうという8020運動を達成するために、特に高齢者の歯周病予防が重要です。(現在達成者は38・8%)
高齢者は免疫力が低下し、唾液の分泌量も減少するため、歯周ポケットの粘膜が炎症を起こしやすく、そこから歯周病菌が血管に入ると、全身の臓器への感染や血栓の原因となります(図3)。誤嚥性肺炎、心臓疾患、脳梗塞、脳血管性認知症、腎炎などが歯周病が影響する代表的な全身の病気です。
歯周病予防には、日頃の自己ケアと歯科医院での専門家によるケアがあります。自己ケアでは、歯みがきが最も大切で、厚生労働省調査によると、1日2回歯をみがく人が約50%に達します。大半の日本人には歯みがき習慣があるものの、歯周病の罹患率が下がらない状況は、日常の口腔ケアの方法に問題がありそうです。
歯みがきは磨くといっても靴磨きとは根本から異なります。表面を磨くのではなく、歯周ポケット内に付着した歯垢を除去するのが歯周病予防の歯みがきです。そのために歯ブラシを45度に傾け、毛先を歯と歯ぐきの隙間(=歯周ポケット)に入れ、ごく軽い力で小刻みに前後に動かします。力が入りにくいようにペンを持つようにしますが、前歯や奥歯の裏側(舌側)などは持ち方や角度を変えます。歯の表面の食物の色素や茶渋などを落とす場合は、歯ブラシを直角にあてて軽い力で前後に動かしてみがきます。
歯ブラシは毛束が3列で6〜7段の比較的小さい物を選び、小豆大の歯みがき剤を歯ブラシの先端に付けます。歯みがき剤が多いと、泡立ちと爽快感でスッキリした気分になり、早く終えてしまいがちです。
歯の表面は唇や頬の内側、舌や唾液などにより洗われるため、歯垢の付着は少なく通常は清潔です。問題は歯ブラシでは届かない場所です。歯と歯の間の歯ぐきにできた歯周ポケット内の歯垢除去には歯間ブラシを使います。歯ブラシと歯間ブラシの使い方は図4を参考にしてください。
歯の清掃具の使い方
歯ブラシの使い方
歯間ブラシの使い方
歯の清掃具によるプラーク除去効果
歯ブラシ | 61.2% |
歯ブラシ+歯間ブラシ | 84.6% |
出典/高世尚子ら「歯間清掃具による プラーク除去効果の臨床検討」