vol.5

自分史

赤坂守人さん「健康推進を口腔・歯から」

東京下町に生まれ、歯科医の父親の背中を見て育ち、時代の荒波に揉まれ、弱者を「守る人」になると決意した赤坂さん。ライフワークにもなった研究についても色々と伺いました。

歯学の中でも専門が小児なのですね。

赤坂さん卒業論文のため、歯科健診で訪問した先が保育園・幼稚園でした。当初、大学卒業後の選択肢に想定していなかったのですが、健診現場で知った現実に、弱者である子どもを守らねばならない、惨状を放っておけないと考えたのです。

どのような惨状が?

赤坂さんほとんどの園児に多数の虫歯があったのです。日本の小児歯科学が設立されてまだ数年の頃で、子どもの歯の治療は不採算、さらに、どうしたら子どもが治療を受け入れてくれるか分からないため、治療されずにいたのです。そうした中、アメリカ留学から戻った先輩からの情報と自ら経験して得た知識の積み上げで、技術力の向上を図らねばなりませんでした。治療の恐怖心を拭うにも、子どもは大人よりも強い信頼関係をよほど必要とするのです。

食育推進にも注力されたのは、子どもたちを思えばこそでしょうか?

赤坂さん危機感がありました。高度経済成長期以降、飽食と食品の多様化により、大人も子どもも軟らかい食物を好むようになりました。硬い食物が噛めない、食物を飲み込むのが下手、上手に飲み込めず口の中にためがちといった摂食に問題のある子どもが増えました。前千葉県知事、当時はジャーナリストの堂本暁子さんとの全国的な共同調査でも明らかでした。原因は咀嚼力の低下。歯で食物を小さく砕き、分泌した唾液で食塊にして飲み込むといった、よく噛まないとスムーズに行えない一連の摂食動作を上手に行えなくなっていたのです。本来、食事は学術的にいう五感(味・臭・視・触・聴)を育む日常動作の一つですが、噛みごたえのない食物では十分な発育が促されません。

そこから「食品の噛みごたえ」の研究につながるのですね。

赤坂さん食事中の顔や顎の動きをビデオで色々と撮り、筋肉の動きを分析し、測定器も使って食品の硬度や性状を科学的に数値化。食品の噛みごたえを表にまとめ、栄養大学の専門家と共同で「食物かみごたえ早見表」ポスターも作りました。
咀嚼と嚥下の機能向上は我々にも必要。老年期の摂食・嚥下の特性を考慮しつつ、改めて勉強をし直しているところです。噛みごたえを出すための食品の切り方、さらに調理法も重要で、週に一度、料理教室へ通い始めました。

次号以降の「オリーブ便り」で、口腔ケアや機能向上トレーニング法などを、赤坂さんにご紹介いただく予定です。