安藤紀楽先生が川柳を始めたのは平成元年。新聞への投稿に興味を持ったのがきっかけでした。いつまでも我流を貫くのではなく、ちゃんと学ぼうと全国規模の川柳の会に参加。今では企業や協会などが募集した川柳の選者を務めたり、入門講座や川柳教室の講師で呼ばれたりしています。
よく比較される、俳句と川柳の関係を例えて言うならば、「江戸時代に生まれた一卵性双生児のようなもの。俳句は〈ちょっと気取った優等生のお兄さん〉、対して川柳は〈ちょっとやんちゃな庶民的な弟分〉と思ってください」と安藤先生。文芸の一つではあるものの、身構えずに、日々の暮らしで見える風景をまずは詠んでみること。意識を向ければ、世界が広く明るく見えてくるそうです。
作句のポイントは、何をどう詠むか。「何を」は第一に作者の「思い」です。色々と詠む材料はあるでしょうが、そこに何らかの形で「作者の生きていく上での思い(=喜怒哀楽)が句の底に流れていてほしい」と安藤先生は言います。「どう詠むか」は、句は文章(散文)ではなく、短詩(韻文)なので、一定のリズムと流れの良さ、いわゆる語呂の良さを大切にすること。そこで5・7・5を基本とした定型のリズム感が大切になります。ただ、リズム感を優先するあまり助詞を無理に削ると、逆に句の流れが悪くなりがちに。要注意です。
まずは詠むこと。そうは言えども、基本やコツを知らなければさすがに難しいものです。入門講座では、参考に上げた例句の作者の気持ちや、作られた世界観が想像できるよう、その句への寸評を加えて一句ずつ丁寧に解説。その中でも、皆様、毒の効いたブラックユーモアたっぷりな句がツボにはまっているようでした。
質疑応答では、「語彙力を増やすには?」との質問が出ました。答えは「類語辞典の活用」。今は重い辞書を引かなくても、電子辞書がありますし、インターネットでも検索できます。江戸時代から続く文芸で、現代の利器を使いこなす技術も磨けそうです。
最後は空欄のある虫食い川柳クイズ。□の中に漢字一字を入れるものですが、色々な漢字を挙げられ、川柳の懐の深さを実感されたのではないでしょうか。
川柳ってなあに?
安藤紀楽先生が、川柳について優しく解説!これを読めば、あなたも川柳作家に!
一、 川柳は「生活の詩」
川柳は、一言でいえば「生活の詩(くらしのうた)」です。生活の上での色々な思いや感動を5・7・5のリズムに乗せて話し言葉(口語)で詠む庶民的な文芸です。
俳句と異なり、季節の言葉(季語)や面倒くさい「—けり」「—かな」「—や」といった切れ字は必要ありません。親しみやすさ、ユーモアといったものが川柳の持ち味です。
ここでいう生活とは、家庭の暮らしだけとは限りません。職場生活、社会生活、趣味生活など、身の回りのことなど、全てがあてはまります。
1:川柳は短詩形文芸の一つ
短歌 | 5・7・5・7・7 (31音) 与謝野晶子 |
---|---|
俳句 | 5・7・5 (17音) 正岡子規 |
川柳 | 5・7・5 (17音) 岸本水府 |
都々逸 | 7・7・7・5 (26音) 都々逸坊扇歌 |
短歌の下の句(7・7)が取れたものが、俳句と川柳ですが、その性格は大分違います。比べてみましょう。
俳句 | 閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声 |
川柳 | 蝉の音も かすれて響く 都市砂漠 |
俳句 | 柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺 |
川柳 | 法隆寺 雀にすれば ただの屋根 |
2:川柳のセールスポイント
- 紙と鉛筆を必要とするだけでお金が掛からない。
- 頭の体操になる。好奇心が湧き、物事をよく見るようになる。
- 心(脳)の健康に良い。ユーモアが持ち味でよく笑うので、ストレスが発散される。脳(海馬)の働きが良くなるので、認知症予防になる。
- 俳句と違い、話し言葉で自由に詠めるので、取っつきやすい。
3:川柳のウィークポイント
- 誤解されている。
江戸時代に文芸として堕落した時代があったので、「駄洒落などの言葉遊び」「下品なことを詠むもの」と思う人が今もいる。駄洒落でおちょくって面白がっているだけでは飽きが来るし、下品な句では女の人は眉をひそめる。誤解のされない言葉選び、そして表現が望ましい。
二、 川柳の心得
心得1:「5・7・5」が基本ルール
川柳は、「5・7・5」の 音が基本ルールで、これを定型という。音(おん)の数え方を知り、語呂の良い句を作ろう。
2音 | 山(やま)、お茶(おちゃ) |
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3音 | 桜(さくら)、切符(きっぷ)、一寸(ちょっと)、ボール |
4音 | 友達(ともだち)、作った(つくった)、サークル |
5音 | 母子手帳(ぼしてちょう)、チャップリン、ハーモニー |
心得2:ウィットとユーモア
ユーモアは川柳の主な持ち味の一つ。特にウィットに富んだユーモアは面白く、笑いを誘う。
【例句】
- お人好し 貧乏神も 寄って来る
- 退職後 今度は妻に 叱られる
心得3:今という時代を詠むべし
川柳は、毎日たくさんの人が作っている。句の材料が古い句はすでに作られていることが多い。
【例句】
- ポケモンが 熱中症に 子をさせる
- リオ五輪 終わってホッと するテレビ
三、 言葉遊びについて
川柳のルーツは和歌にある。和歌には韻を踏んだり、掛け言葉がよく使われるが、洒落のセンス、教養の高さを示すものとされていた。
【百人一首での例】
- いにしえの 奈良の都の 八重桜 きょう九重に 匂いぬるかな
きょう=「今日」と「京都」を掛けている。駄洒落ではなく、遊び心を持った洒落のセンスある句を洒落川柳として評価したい。
【韻を踏んだ例句】
- 決めるのは 都民と言って 勝利決め
【掛け言葉の例句】
- 踊り手の センスが光る 舞扇
【言葉遊びの例句】
- 水割りで どうぞ焼酎 見舞いです
- 阿波踊り ゲリラ豪雨に アワと消え
- 四回転 羽が生えてる 羽生の背