誤嚥性肺炎の本当の原因
わが国の死因上位の病気は、がん、心臓病、肺炎、脳卒中です(図1)。近年順位を3位に上げ注目を集める肺炎は、高齢者では約9割が誤嚥性肺炎といわれています。誤嚥はのどから食道へ入るべき物が、誤って気道へ入ってしまう状態のこと。食べ物を飲み込むときだけでなく、寝ている間にも起こり得ます。知らない内に唾液や胃液が気道に流れ込むのです。唾液や食物などと一緒に、細菌が気道に誤って流入することで、誤嚥性肺炎を発症します。誤嚥性肺炎は、高齢者特有の全身的機能の低下と深く関係しています。
フレイルの理解が予防に
人は加齢に従い、徐々に全身の機能が低下し「虚弱化」します。この「虚弱」のネガティブなイメージを払拭し、予防意識を高めるため、日本老年学会では「虚弱」の英語表現から「フレイル」と呼称するよう提唱しています。フレイルは介護を要する手前の状態であり、予防や回復が可能な状態と位置付けられています。そこで、フレイルの早期発見と予防こそが、健康寿命を延ばすカギとも考えられています。
次に挙げる2つの状態は、フレイルを招く前段階といえます。一つは、「サルコペニア(加齢性筋肉減少症)」です。加齢により筋肉量が減少し、全身の筋力低下が起こることです。転倒しやすくなり、骨折や機能障害を起こす危険性が増えます。結果、自立した日常生活が阻害され、生活の質に大きな影響を及ぼします。もう一つは、「ロコモ(ロコモティブシンドローム=運動器症候群)」です。加齢による筋力低下に加え、関節・脊椎の病気、骨粗しょう症など運動器の機能が衰えて、要介護となる危険性の高い状態を指します。まさに、フレイル出現前の状態です。
フレイルを評価する簡便な方法を図2で紹介します。指でつくった輪をふくらはぎの最も太い場所にあてがうだけで自己評価が可能です。輪で「囲めない」場合はサルコペニアのリスクは低く、「隙間ができる」ほどふくらはぎが細い場合は高リスクとなります。「囲めない」集団と「隙間ができる」集団を比較すると、サルコペニアの出現に約6倍もの差があることも明らかにされています。
「食べる力」は「生きる力」
フレイルを少しでも戻すためには、図3に示すように3つの柱が一体で働く必要があります。「栄養」では、特にタンパク質を摂ることが重要です。
「食べる力」は「咀嚼力」「摂食力」「嚥下力」などが総体的に機能して発揮され、口腔(歯・舌・唾液)、咽頭(のど)、食道など種々の器官と関係する諸筋肉の連動運動を必要とします。そのためフレイルは「食べる力」にも現われ、「オーラルフレイル」と呼ばれます。
オーラルフレイルの兆しには「歯を失う」「滑舌(舌の動き)が悪くなる」「硬い物が食べにくい」「食べこぼしがある」「むせることが多くなる」などがあります。放置しておけば低栄養を招き、サルコペニアを引き起こす原因に。食べる力が衰えると嚥下力も低下し、誤嚥の誘因となる「摂食・嚥下障害」が起こりやすくなります。
誤嚥性肺炎や食べ物の「むせ」の予防には、口腔内の歯垢や舌苔に生息・定着している細菌を除去する口腔清掃などの口腔ケアが有効です(前号に掲載)。また、噛みごたえのある食べ物をよく咀嚼し、唾液を十分に分泌して嚥下しやすくすることです。図4に示すように食事をするときの姿勢、特に水物を飲むときには、下顎を引きながら嚥下することがとても重要です。