vol.5

あの街探訪

練馬区関町:人と自然、人と人とが近い場所

武蔵関公園:ひょうたん形の大きな池を囲む1周約1.2㎞の遊歩道が整備された練馬区立の公園で、広場やボート場もあります。 池にはカワセミのほか多種多彩な野鳥が訪れます。
武蔵野関町マップ

「武蔵野の俤はいまわずかに入間郡に残れり」との文言を文政年間にできた地図で見たことがある、と国木田独歩が著書『武蔵野』の冒頭で書いています。

そして、1896年秋から翌春までの日記を振り返り、武蔵野の自然を詩趣豊かに描写して、「武蔵野の美今も昔に劣らず」と持論を展開。生活と自然の密接さが、武蔵野の特徴だと主張しました。

今、『武蔵野』で描かれた広大な雑木林に村落が点在する姿はありませんが、武蔵野の面影はそこかしこに残っています。湧水をたたえた池、それを抱くように形成された落葉林は、武蔵野台地に複雑に入り組む侵食谷と湧水が作り出した特有の自然なのです。

ひょうたん形の池を中心とする武蔵関公園も武蔵野の面影を象徴する、歴史の古い公園の一つです。歩を進めるたびに輝き、林影のうちに消えまた煌めく水面、初夏の日差しに重なる葉も眩しい樹々。豊かな自然の中に人が憩い、語らう。その風景も「武蔵野」そのものなのでしょう。

広場に集い、みんなの体操、ラジオ体操、太極拳などを行うサークルで会員は170人以上。10人の講師は、ラジオ体操の指導資格保有者。

武蔵関公園には、ウォーキングやジョギング、犬の散歩を楽しめる周囲約1・2㎞の遊歩道に加え、子ども向け遊具と大人向け健康器具を備えた広場があります。朝6時前から人々が集まり、定時になると広場を埋めた100人近くが一斉に健康体操を始めます。現役世代から上は90代が参加する体操サークルの歴史は35年以上。会員同士が仲良くなり、社交ダンスやグルメ散歩会など趣味グループができるほど、人と人も近い地域と言えます。

若柳流の師範を講師に迎え、歌謡曲で踊る日本舞踊の会で、モットーは経験問わず無理なく身体を動かし楽しく踊ること。

練馬区には、人と人を結ぶ高齢者施設も充実しています。はつらつセンター関(旧関高齢者センター)では、サークル活動を支援する設備が整っており、生花や茶道、陶芸、映画など多くのサークルが活動しています。中でも日本舞踊は音楽を聴き、足先と指先にも意識を向けて体を動かすため、足腰の鍛錬は元より、脳を刺激する脳トレにもなると人気があります。日本舞踊の師範が講師としてつき、初心者でも喜んで受け入れてくれるサークルがあるのも嬉しいところです。

緑陰深い武蔵関公園を歩いていると、遠足中の幼稚園児たち、ご夫婦やお友達でウォーキングを楽しまれている方々、大砲のようなレンズのカメラを構えた野鳥撮影愛好家と行き合います。そして、初めて顔を合わせる相手とも気さくにあいさつを交わし、ちょっとした会話に花が咲きます。

他者に対する懐の深さは、武蔵野の自然と共にあり、かつ欲しいものが揃う吉祥寺・三鷹エリアも生活圏とする心のゆとりを表しているのかもしれません。大規模商業施設、個性的な専門店が揃うアーケード街のある吉祥寺エリアへはバスですぐ。恵まれているのは自然環境だけではない、ここでは心も豊かにする暮らしを描けます。